大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和25年(う)960号 判決 1950年7月22日

被告人

林活郎

外三名

主文

原判決中森正雄、同小島政治に対する部分を破棄する。

被告人森正雄を懲役六月に、同小島政治を懲役一年六月に処する。

原審における訴訟費用は相被告人林活郎、同近藤典一と右被告人両名の連帯負担とする。

被告人林活郎、同近藤典一の各控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人端元隆一の控訴趣意第三点について。

原判決はその第一事実において被告人等が共謀の上判示のように青木定夫に暴行傷害を与えた事実を認定したのであるが、その適條において被告人森正雄、同小島政治の所為については何れも刑法第二百四條、第六十條、第二百七條を適用処断したものであることは所論の通りである。按ずるに刑法第二百七條は二人以上にて暴行を加え人を傷害した場合犯人が共同者でないときの処断に関する規定であるから本件の場合の如く被告人等が共謀の上(共同正犯)暴行を加え人を傷害した所為に対しては適用あるものでないと解すべきである。されば原判決が右の被告人両名に対し、刑法第六十條を適用しながらなお同條を適用したのは全く誤りというべく即ち原判決には理由のくいちがいがあるといわなければならない。よつて論旨はこの点において理由がある。

(弁護人端元隆一の控訴趣意)

原判決には擬律錯誤の理由不備の違法があり破棄を免れない。原判決第一事実の擬律は刑法第二百四條、第六十條を適用するを以て足り之で十分である。然るに原審は原判文第一の如く認定して置きながら被告人林活郎、近藤典一に対しては、刑法第二百四條、第六十條を被告人森正雄、小島政治に対しては刑法第二百四條、第二百七條、第六十條を適用する趣旨なること原判文上明白である。然れども刑法第二百七條を適用する場合は同條に示す通り二人以上にて暴行を加え人を傷害したる場合に於て傷害の軽重を知る事能はず又はその傷害を生ぜしめたる者を知る事能はざるときは、共同者に非ずと雖も共犯の例に依るべきものである。本條は犯意共通せず共同正犯に非ざる時に適用せらるべきものであつて、原判示の如く共謀の下に為されたとする犯行に適用すべきものに非ざる事多言を要せずして明らかである。然るに原判決は本件第一の犯行は被告人等の共謀の下に為された共同正犯であると認定しながら、その擬律に於ては共犯に非ずして同時犯の場合に適用すべき刑法第二百七條を適用しており之は違法である。即ち本件第一の事犯は被告人等が共謀して犯行したに非ず単に無計画に現場に臨みたるも松井利行等が逃亡せんとしたので被告人森、小島が突嗟に之を捉え同人と信じて青木定夫に暴行傷害を加えた突発的、偶発的の事案である事は記録を通読して容易に看取し得る処である。従つて本件は共同正犯に非ずして森、小島の各単独同時犯である。然るに原審は之を共同正犯と認定した事が既に誤りである。之に加えてその擬律に於て全被告人に共同正犯の擬律を為さずして林、近藤に対しては共同正犯の法令を適用し、森、小島に対しては単独同時犯の適條を為して矛盾を露呈している。即ち原判決には擬律錯誤、理由不備の違法がある故この点に於て原判決は破棄を免れない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例